おかきのひとりごと

ねえちょっと聞いてよ٩( ᐛ )وなことを書くブログです。

たまに思い出す人

 
 
 
私は寒い季節が嫌いだ。
 
 
誕生日もクリスマスもバレンタインも楽しいイベントは全て寒い季節にあるのに。
 
そんな事がどうでも良いくらい、やりきれない思い出が目に、脳に、鼻に、こびりついて離れない。
 
まだ高校生だった頃、私には大好きな彼がいた。
 
5つ年上で父子家庭だけれど実家は歯科医で裕福なおうちの息子さんだった。
 
彼は優しくて運動神経もよくて高校時代はバスケ部のエースだったし、勉強も成績は常に優秀で有名大学に通いながら、バイトではチーフの仕事まで任されて、出会った人をすぐ虜にしてしまう。
これぞ少女漫画から飛び立して来た男子だって感じのような人だった。
 
私と彼はアルバイト先で知り合った。
 
パートのおばさんばかりで馴染めない私に話かけてくれたのがきっかけだった。
 
彼は私の薄っぺらくて長いつまらない話に毎回答えをくれた。
 
そんな完璧な彼だったが、複雑な家庭環境からか、自分の幼少期の話や母親の話をするとき精神的に不安定になって取り乱し何時間も涙が止まらない事が度々あった。
 
 
でもそんな一面を見て、私は完璧な彼の"人間らしい部分"を見せてもらえる存在なのだと安心した。優越感に浸った。
好きだったからだと思う。
 
 
たまに不安定になってしまう部分を除くと、優しくて友達も多くて、何故すっからかんな中身の無い私と一緒にいてくれているのか、もしかして騙されてるんじゃないかと心配になってわざと距離を置いたりした。
 
しかし今の私の人生は紛れもなく彼の手によって作られた。
 
サッカーも料理も音楽も海外も楽しいことは何もかも、趣味のない私に一から教えてくれた。
この"文章を書く"という行動も、「おかきの書く文章はちょっと人と違うよね(笑)」と彼が軽く褒めてくれたのを私が真に受けたのがきっかけだ。
 
私はスポンジが水を含むように、全部を吸収した。
 
彼と出会った事でグレーだった今までの世界が華やいだ。
 
 
それからは彼がいなくても大丈夫な位に趣味の友達が増えた。バイトを毎日かけもちして、飛行機で旅行にも行った。
 
私はこれが大人の世界なんだと自分に酔った。
 
自分本位になった私は彼とはあまり会わなくなっていたけれど、度々近況報告メールをした。
 
最近あった事、気になる事、私の薄っぺらい疑問。
 
彼は「お、そこ行ったんだ!」とか、「すげー事に気がついたね」とか、とにかく褒めてくれた。
 
しかしその頃彼もまた就職をして身の周りの環境が変わっていた。
 
毎日終電で帰り始発で出社、休みの日も、「今日もしかしたら仕事かもしれない」と突然出社しそうになったりした。
 
泣きながら私に、助けてくれと頼みこんできた日もあった。
 
 
今考えたら彼は確実に鬱だった。病んでいた。悩んでいた。
 
でも無力なことに、社会人はこんなにも辛いのかと考えるのが当時の幼稚な私の思考の限界だった。
 
取り乱しても時間が経つと彼はまた普通の穏やかな人に戻るから、社会の荒波に揉まれているんだなと思った。
 
 
 
 
ある時、彼の海外転勤が決まった。
 
その報告を彼がとても嬉しそうにしていたので、遠距離は寂しいけど仕方ないかと諦めた。
 
多分転勤するまでの三カ月くらい、彼は今までの憂鬱が嘘のように出会った頃の元気な彼に戻っていた。
 
海外に赴任しても、パソコンでテレビ電話をしたりメールをしたりして変わらず連絡をとった。
 
仕事は忙しいけど順調だよと、これを乗り越えたら落ち着くから帰国する。美味しいものを食べようねと話した。
 
私はそれを楽しみにしていた。
 
 
 
でもそれは叶わなかった。というより私に黙って帰国していた。
 
 
彼は私に何も言わず、自分で命を絶った。
 
 
私がそれを知ったのは亡くなってから二カ月を迎える頃。共通の知人からの連絡だった。
 
 
当時の彼は仕事で酷く疲れていたらしい。あとは知らない。
 
 
ただ、最後に交わしたメールの様子が今振り返ればおかしかった。
 
あるとき突然連絡が来て、
 
「わからない事も世の中にはあるんだよ。お前は性格を変えた方がいいよ。」
 
と言われた。
 
いつもなら優しい言葉で褒めてくれる彼が、初めて私に発した否定の言葉だった。
 
子供だった私は素っ気ない返事をした。
 
それから連絡が来ることはなかった。
 
こういうのは自然消滅というんだろうか?それとも彼は私のあまりのウザさに呆れてしまったのだろうか?
 
彼は亡くなる前に律儀にクレジットカードをとめていたらしい。
 
多分自分の中にスケジュールがあったのだろう。
 
最後まで全て自分でやってしまう人なんだな。彼らしいなと思った。
 
でも腑に落ちないのは、帰国した彼のキャリーバッグの中には私への誕生日プレゼントとして綺麗にラッピングされたピアスが入っていた事。
 
なんでせめて誕生日に会いに来てくれなかったのか、相談してくれなかったのか、私は彼の癒しにはなれなかったのか、。
もしかしたら、あんなに完璧な彼だったから私の他にも沢山女の子がいたのかもしれない。
 
考えても考えても、答えは出ない。
 
 
あれからもう驚くほど早く時間が経つ。
 
華やかに見えたはずの世界は再びグレーに戻り、また何か光をくれないかともう存在することのない彼をたまに想う。
 
 
突然消えたあの完璧すぎる彼は幻だったのだろうか。
 
違うのかもしれない。彼は完璧ではなかったのかもしれない。
 
気がつくのが遅過ぎた。
 
 
 
また寒い季節がくる。彼を思い出す。